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京都地方裁判所 昭和60年(ワ)83号 判決

原告 葛野大路工務店こと 伴達明

右訴訟代理人弁護士 戸倉晴美

被告 京都中央信用金庫

右代表者代表理事 西村清次

右訴訟代理人弁護士 浦井康

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和五六年七月四日以降右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は左記の約束手形(以下本件手形という)一通を所持していた。

金額 金三〇〇万円

満期 昭和五六年七月三日

支払地 京都市

支払場所 被告丸太町支店

振出日 昭和五六年五月二二日

振出地 京都市

振出人 有限会社さか藤

受取人兼第一裏書人 有限会社京和

第一被裏書人欄 白地

2  昭和五六年五月二二日頃、原告は訴外株式会社京都相互銀行山科支店に本件手形の取立委任を依頼し、同行はこれを承諾したので、原告は被裏書人欄を白地として取立委任裏書をなし、本件手形を交付した。

3  右銀行は本件手形の第一被裏書人欄に原告名を記入すべきであったのに、誤って株式会社京都相互銀行と記入したため、これを抹消して原告名を書き加えて本件手形を支払呈示期間内に、支払場所において支払のために呈示したが、被告は、裏書不備の理由で支払を拒絶した。

4  その後原告は、本件手形の振出人と裏書人に対し、手形金の請求をなしたが、同人らは被告の過失を言い募ってこれに応じず、ほどなく倒産して所在不明となったため、原告は本件手形金の支払を受けられなくなり、手形金三〇〇万円の損害を受けた。

5  ところで本件手形の右呈示に先立って、本件手形の振出人である訴外有限会社さか藤(以下訴外会社という)は、被告に対し、訴外会社振出の手形等の支払呈示があった時に、訴外会社の預金から支払をするよう委託した。

6  従って、被告は支払銀行として、訴外会社の振出した手形の所持人が適法な手形の呈示をなした場合、同人に対し支払に応じる義務がある。ところが被告は、訴外銀行のなした前記適法な呈示に対し、漫然と裏書の連続を欠くと判断して支払を拒絶した過失がある。

7  仮に、被告主張のとおりに、本件手形が呈示された際に、訴外会社が被告に本件手形の支払委託を取消したとしても、右は正当な理由のないことの明白な支払委託の取消であったから、このような場合に被告が支払を拒絶することは、振出人とともに原告に対する共同不法行為となる。

8  よっていずれにせよ、被告には、原告に対し、右各過失により手形金相当額の損害を与えたことによる不法行為責任があるから、原告は被告に対し、手形金相当額の損害金三〇〇万円及びこれに対する満期の翌日である昭和五六年七月四日以降右完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否と反論

1  請求原因第1項及び第2項の事実は知らない。

2  同第3項の事実のうち、原告主張の手形が被告に呈示されたこと、被告がこれを裏書不備の理由で支払拒絶したことを認めるが、第一被裏書人欄作成の経緯は知らない。

3  同第4項の事実は知らない。

4  同第5項の事実を認める。

5  同第6項のうち、支払銀行である被告が手形の所持人に対して主張の如き義務を負うとの部分を争い、被告が漫然と本件手形が裏書の連続を欠くと判断した旨の事実を否認する。

6  同第7項の主張を争う。

7  被告は本件手形の呈示を受けた際、裏書の連続に疑義が生じたので、支払の委託者である訴外会社に処理を問い合わせたところ、裏書不備の理由で返却するように指示を受けたので、指示に従い支払を拒絶したにすぎない。被告は支払担当者として、訴外会社に対する委任契約上の義務を負うが、手形の所持人に対しては何らの義務を負うものではない。

第三証拠《省略》

理由

一  弁論の全趣旨によって第一被裏書欄については訴外京都相互銀行が作成したと認められ、その余の部分については《証拠省略》によれば、請求原因第1ないし第3項の事実が認められる(原告主張の支払の呈示及び主張にかかる理由による支払拒絶の事実は当事者間に争いがない)。

二  しかしながら、本件手形が呈示された当時、被告が訴外会社と同社振出の約束手形につき支払委託契約を締結していたことは当事者間に争いがないところ、約束手形の支払担当者が民法六四四条により裏書連続の整否を適確に判断すべき注意義務を負担するのは、あくまで支払委託関係のある訴外会社に対してであるにとどまり、右のような委託関係のない手形所持人に対しては手形振出人の機関にすぎないから、所持人に対し独自に同様な注意義務を負うものではない。従ってかりに被告が本件手形の裏書整否の判断を誤まったとしても、そのことが原告に対する不法行為を構成する余地はないから、この点に関する原告の主張はその余の事実を判断するまでもなく主張自体失当である。

三  また原告は、仮定的に訴外会社の支払委託の取消しには正当な理由がなく、そのことが被告に明白であったのに、これに基づいて本件手形の支払拒絶をしたのは、原告に対する共同不法行為にあたる旨を主張するけれども原告が右支払委託の取消が正当な理由によらないと主張する理由は、裏書の連続があるとすべき本件手形の呈示に対し、裏書不備を理由として支払を拒絶せよと指示したことにあると解されるが、手形の振出人が如何なる理由で支払を拒絶すべきかを支払担当者に指示するかは、振出人の責任においてなすことであり、受任者である支払担当者はこれに従わざるを得ない立場にあるから、指示に基づき手形を毀滅するなど特別の事情がある場合はともかくとして、原告主張事実のみから、被告と訴外さか藤が共同不法行為責任を負担する余地はなく、主張自体理由がない。

四  以上の判断によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本順市)

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